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2006年07月15日

●費用化は企業価値に影響を与えるか?

今まで、ストック・オプションを発行してきた企業が、「ストック・オプション会計基準」の導入後に全く今までと同様のストック・オプションを発行したら、企業価値が減少するのでしょうか。

同会計基準導入以前もストック・オプションの発行費用は計上していなかっただけで、確実に発生していたのです。 「ストック・オプション会計基準」はこの費用企業価値をガラス張りにする目的で導入された「会計」上の基準であり、この基準そのものは企業価値にはなんら影響は与えません。 要は『ストック・オプションの費用化は「利益」は減少させるが「株価」にはニュートラル』といえます。しかし、注意すべきは『ストック・オプションの発行は企業価値を変化させる』ということです。同会計基準導入以前は、この影響の度合いを計測する必要がありませんでした。 結果として、安易なストック・オプション発行に走る企業が続出したのも事実であり、同会計基準の導入には、この打ち出の小槌にも例えられる「費用なき発行」を牽制する目的もあるのです。
では、果たしてストック・オプションは企業価値(株価)にどのような影響を与えるのでしょうか、また企業価値を向上させるストック・オプションの発行形態はあるのでしょうか。以下、様々な角度から検証していきたいと思います。

<フリーキャッシュフローの点>


 ファイナンス理論によれば、企業価値は「将来のキャッシュフローの現在価値」と定義されています。キャッシュフローは文字通り実際の現金の動きであり、必ずしも財務諸表上の数字と一致しません。 
例えば、営業利益は「営業利益=売り上げ−製造原価−一般管理費」で表されますが、製造原価の中には実際にキャッシュの流出を伴わない減価償却費が含まれます。この減価償却の方法には定額法、定率法などがありますが、定額法も一定額で償却していくのと、一定率で償却していくのとでは一期間で償却する金額が違ってきます。従って償却方法を変えることで、利益の金額が変わってくるのです。 また建物や機械設備の償却期間(耐用年数)を延長することでも、当然のことながら減価償却費の金額は変わってきます。従って企業の経営者は将来の会社の利益予想をにらみながら、一番都合のよい償却法を選ぶことができるのです。
この減価償却法だけではなく、在庫評価の方法(先入先出し、後入れ先出しなど)や貸倒引当金によっても会計上の利益は変化します。これらのコストは全て実際の現金(キャッシュ)の流出が伴わないコストです。

そこで客観的かつ正確な企業価値を測る指標としてキャッシュフローが注目されてきたのです。 キャッシュフローの定義は「キャッシュインーキャッシュアウト」とシンプルそのものです。そして今そこにある現金を見ているのですから(作為と計算間違いさえなければ)誰が算出してもまったく同じ結果になります。
グローバルスタンダードが進む中、各国の会計制度の影響を受けないキャッシュフローが経営指標になったのは当然の帰結といえるでしょう。

企業価値評価に使われるキャッシュフローは「フリーキャッシュフロー」であり以下のように定義されていました。

フリーキャッシュフロー
営業利益×(1−税率)+減価償却費―投資―△運転資本

上記において、減価償却費を足し戻しているのは、これがキャッシュの流出を伴わない費用だからです。したがって、新会計基準施行後は、ストック・オプション費用も「キャッシュフローなき費用」であるとするならば、フリーキャッシュフローの計算式に同じく足し戻す必要が出てきます。

よく考えれば、ストック・オプション発行は「キャッシュの流入を伴わない金融取引」です。通常、新株予約権取得者は、新株予約権から期待できる経済的利益の対価としてプレミアム(取得費用)を発行者に支払います。それに対して(無償で発行される新株予約権と定義されている)ストック・オプションにおいては、発行者はプレミアム受け取る代わりに、従業員等から将来の労働サービスを対価として受け取ります。 将来の労働サービスは、企業のキャッシュフローを改善する原動力になります。
したがって、企業価値への影響については、評価算定モデルで算出されたストック・オプションの公正な評価額とその対価として企業側が受領する将来の労働サービスが生み出すキャッシュフローを天秤にかけて判断する必要があります。