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2006年08月01日

●新株予約権差し止め請求の法的根拠

最近有償発行される新株予約権発行において、余りに実勢とかけ離れた低価格発行が、様々な弊害をもたらし始めています。

一般的に、新株予約権の低価格発行は、取得者にとっては「公正な評価額―発行価格」(有利発行分)の利益が持たされますが、その分は既存株主の損失となります。従って、取得者の利益と既存株主の損失はトレードオフの関係にあるといえます。未公開のオーナー企業のように、取得者≒既存株主の関係であればこの利益相反は問題にはなりにくいものの、上場企業のように不特定の一般株主がいる場合は大きな問題になります。

最近は個人株主も新株予約権の発行に目を光らせているようで、2006年1月、TRNコーポレーションに対して起こされた新株予約権発行の差し止め請求などは、その監視の目の厳しさを物語っています。この結果、同社の株価は差し止め請求により3ヶ月間で約50%減価し、皮肉にも、企業価値を向上させる目的で発行された新株予約権が、まったく逆の作用をもたらしたこととなりました。

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TRNコーポレーション「第4回新株予約権」の発行差止請求について


�概要

2006年1月17日 TRNコーポレーションが決議した、セブンシーズホールディングスやMACコーポレートガバナンス投資事業組合へ対して発行する新株予約権については、大株主のエイチ・エス証券系投資会社が、法令違反または不公正発行に該当することを理由として、第四回新株予約権発行差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てたと発表しました。


�新株予約権の発行要項

発行決議日:2005年12月28日
行使価格:312,480円/個
行使期間:1年10ヶ月
当時の株価:412,000円(12月26日終値)
発行総数:56,000個
発行価格:298円/個
その他条件:任意消却条項(1営業日前の事前通知をすることでいつでも消却できる)


�発行差し止め請求の論拠

・有利発行である
・任意消却条項の妥当性に問題がある
・不公正発行の恐れがある

などが争点となりましたが、ここでは「有利発行であったか」について検証してみましょう。本新株予約権の価値については、オプション評価モデルについての知識がなくても、簡単に算出することができます。 このオプションは同社の株式1個を312,480円でいつでも買うことができる権利なのですから、合理的な市場参加者であれば、発行日の当日すぐに権利行使し、手に入れた株式を市場で売却すれば 412,000円−312,480円と約10万円の利益を容易に手にいれることができます(※1)。ということは、この新株予約権は少なくとも10万円以上の価値はあるといえます。

少なくとも一個あたり10万円の価値のあるものを298円/個で発行したのですから、当然既存株主は黙ってはいないでしょう。ざっと見積もっても56億円以上の有利発行であり、すなわちその分既存株主の利益を毀損させたことになります
同社の発行済み株式数は59,000株であり、一株当たりに換算すると約10,000円の減価となります。さすがに2月に200,000円近辺まで下げたのは行きすぎであり、その後株価は回復しましたが失った信用などを考えると、代償は大きかったに違いありません。

※1:あくまで12月26日の終値で売却できると仮定しています。

参考:ストック・オプション会計評価と評価の実務(税務研究会出版局)