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2006年08月04日

●誰がSO評価をするのか?

ストックオプションの費用化が決定した後、大きな問題となったのは、誰がその評価をするのかと言うことです。
ちなみに、2006年4月における、上場企業からの回答は以下のとおりでした。

�監査法人:60%
�幹事証券会社:30%
�自社にて対応:5%
�その他の第三者機関:30% 
(出展:株式会社プルータス・コンサルティング、重複回答を含む)

ほぼ、9割の企業が、監査法人か幹事証券会社に頼めば事足りると考えていましたが、実際に当事者たちの反応は、企業の思惑とは少しずれているようです。
以下に各評価機関の一般的なスタンスや、評価スキルについて検証してみました。

※注意
あくまで、一般論を述べているに過ぎず、個別の評価機関が全て下記のとおりということではありません。

�監査法人
ここでいう、監査法人は、監査法人系のグループ会社(コンサルティング会社等)も含んでいると思われます。企業の思惑とは異なり、一般に監査法人系のグループ会社はオプション評価業務を主な業務とするところはほとんどないようです。監査法人系のグループ会社は、監査業務から派生する周辺分野の領域を業務分野としていますが、いくら会計(アカウンティング)の専門家であっても、金融(ファイナンス)、金融工学(ファイナンシャル・テクノロジー)はまったく別の分野です。
このストックオプション評価は会計より金融のスキルが必要とされるため、会計の専門家集団である監査法人は、評価業務については彼らの専門外であるといえます。

�証券会社
主幹事証券会社においても評価業務をメイン事業としている企業は少ない状況です。企業の財務担当者と近しい証券会社における引受業務の部隊は、金融商品の設計や評価のセクションとは異なるため、セクションを越えた連携が必要になるようです。加えて、(多分、採算性の点から、)この評価業務を独立したサービスとして展開しようとする証券会社も限られています。
 
�自社対応
評価業務を自社対応しようとするのは、金融の専門知識をもつ社員を抱える限られた企業でしょう。勿論、ある程度の専門知識をもつスタッフであれば、後述するストックオプション評価モデルの一部は比較的手に入れやすいものであるため、複雑な発行条件でなければ対応は可能です。しかし、ほとんどの企業にとって今回の費用化に向けたストックオプション評価は初めての試みであるため、評価業務を信頼の置ける外部の第三者機関に委ねようとしています。
 
�その他第三者機関
「その他の第三者機関」にしても、その多くは会計士、税理士事務所内で一部の担当者が、専門書を片手にプライシングモデルを構築しているケースのようです。しかし、このストックオプション評価は教科書どおりの評価プロセスで対応できるほど、簡単のものではありません。もともと市場で取引されることを想定していないストックオプションの発行条件は非常に複雑なものが多く、ストックオプション会計基準で例示されているような簡単な評価モデルであるブラック・ショールズモデルは使用に耐えません。
会計、税務の専門性に加え、デリバティブの知識、金融工学の知識を組み入れなければ、企業の様々なニーズを満たす評価サービス体制を構築することはできないといえます。
ストックオプションなどのデリバティブ商品について、今のところ一番ノウハウを持っているのは、外資系の金融機関の商品開発部門のスタッフです。
彼らの中にはクオンツと呼ばれる金融工学の専門家(※1)がおり、日夜複雑なデリバティブ商品の開発に明け暮れています。
実際に金融マーケットで取引されるデリバティブ商品の開発には、同時にプライシング・モデルの構築という業務も付随します。もしこのプライシングモデルが不完全であれば、一回数百億円の規模で発生するデリバティブ取引で、多額の損失を発生させる可能性があるからです。その意味で彼らは、オプション評価モデル構築の、最先端を走っているといえます。但し、その評価モデル構築のノウハウは彼らの収益の源泉でもあるため、非常に厳しく管理されており、同じ部署で働くスタッフにも知らせないほどです。オプションについては、教科書的な基礎理論書は数多く見かけるのに対し、最先端の商品ついての解説書が見当たらないのはその理由によるものです。もし巷でそのような解説書を見かけるようになったとしたら、もうその商品は過去の遺物である証拠といえます。

※1:数学者より物理学を専攻した者が多いようです、理論より実践といえるでしょうか。