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2007年02月13日

●ストック・オプションの会計監査

 ストック・オプションは、金融工学の手法を利用してその費用価額を見積ります。したがって、ストック・オプションは経営者および監査法人にとって「会計上の見積り」として扱われます。

 会計上の見積りは、どうしても仮定の設定などに関して主観的判断を伴うことが多いため、監査上、リスクが高い項目に分類されることが一般的です。ストック・オプションも、他の会計上の見積りと同じくこの点に該当し、したがって、経営者はストック・オプション費用のロジックを監査人に対して十分に説明しなければなりません。具体的には、少なくとも以下の項目に対して説明が求められるでしょう。

�見積り上の仮定
�見積りに利用した基礎数値
�利用した株式オプション価格算定モデル
�実際の計算プロセス

 たとえば、株価条件がついたストック・オプションの失効数を見積るには、株価の確率過程が必要ですが、そのためにはどのような確率過程に従うのかといった仮定や、ドリフト項の大きさについて仮定を置かなければなりません。見積りが合理的であるかを判断するために、監査人はこういった仮定についても吟味します(�見積り上の仮定)。

 また、ストック・オプションの公正価値を算出するには原資産の価格やボラティリティ、無リスク利子率などの基礎数値が必要です。監査人は、会社が使用した基礎数値が果たして正しいものなのかどうか、会計上認められるものなのかどうか、この点についても吟味します(�見積りに利用した基礎数値)。

 さらに、ストック・オプションの内容によっては、ブラックショールズ・モデルや二項モデルが利用できないケースも存在するため、監査人は、会社が使用したモデルについても検討します。たとえば、ストック・オプションに償還条項や消却条項が付されている場合、ブラックショールズ・モデルは利用できません。この点は、今後さらに重要な監査上の検討事項となって行くでしょう(�利用した株式オプション価格算定モデル)。

 そして最後に、会社が公正価値を実際に計算するプロセスも監査事項となります(�実際の計算プロセス)。これは、たとえ見積り上の仮定や基礎数値が正しかったとしても、実際の計算プロセスでミスが起こりうるためです。たとえば、二項モデルを使用している場合に、ノードの数(枝分かれの数)が不十分で、オプション価格が極めて高いあるいは低い数値になってしまうことがあります。このような場合、ともすれば財務諸表の虚偽表示となってしまい、有価証券報告書の注記を丹念に見ている投資家からすれば、株主代表訴訟の対象ともなりえるでしょう。したがって、ストック・オプション費用の見積りには経営者、監査人ともに細心の注意が必要です。