2006年08月15日

NASDAQがストックオプション問題で警告

 ストックオプションの公正な評価額を算定するには株式オプションに共通するいくつかの基礎数値が必要になりますが、それらは恣意的に操作される危険性が非常に高いものです。米Apple社はストックオプションの付与について米証券取引委員会(SEC)の規定違反が存在していたとして、米国時間8月11日にNASDAQから警告書を受け取ったことを明らかにしました。

 具体的な違反の内容は明らかにされていないものの、今後の進展いかんによってApple社は上場廃止に追い込まれるおそれがあり、米国でも注目が集まっています。
 先日もお伝えしましたが、Apple社は警告書を受け取る以前からストックオプションの付与をめぐって問題があったことを発表しており、そのためにSECへの四半期決算書類の提出が遅れることを明らかにしていました。
 今回NASDAQからの警告書を受けて、Apple社はNASDAQに公聴会の開催を要請したうえで、投資家に対して即座に上場廃止に追い込まれることはない旨を述べました。しかし、下図からも明らかなように市場の反応は極めて厳格であったといえましょう。

2-6-1.GIF

 このほかにもストックオプションの付与をめぐっては、様々な不正が行われるおそれが存在しています。
 たとえば、以前から米国で問題になっている付与日を操作する問題(バックデート)や、企業に有利なボラティリティを用いる行為(ボラティリティチェリーピッキング)、買収など株価にインパクトを与える情報が発表される以前にストックオプションを付与することで費用額を抑えるインサイダー的行為(スプリングローディング)があります。
 いずれもストックオプションの費用額を恣意的に操作する重大な違反行為であり、決して許されるものではありません。

 このようにストックオプションの付与は会計規則に則った適切な過程を踏まなければ、投資家の信頼を大きく損ねることになるといえます。本邦におけるストックオプションの費用化は始まったばかりであり、今後ストックオプションをめぐる会計処理はさらに厳しい監査の目にさらされるでしょう。

2006年08月04日

新株予約権による資金調達の急増

日経金融新聞によると、新株予約権を証券会社に割り当てて資金調達する企業の数は、この二年間で約40社。権利行使した場合の調達額は約2000億円に達することが分かりました。

新株予約権の価格は、権利行使価格の変化や償還条項の価値なども加味して計算するため、算出は金融工学を用いた手法に依らざるをえません。一般的に知られているブラック・ショールズ式などが全く使えない類のオプション評価が求められるのです。
この専門知識を要する業務は、証券会社などの一部の金融機関が、その評価のノウハウを持っています。しかし、証券会社に割り当てる新株予約権の評価自体を、割当先の証券会社自身が行うわけにはいかないでしょう。

そんな中、第三者的な位置づけのコンサルティング会社が急増し、独立性・中立性が求められる評価業務を実施しているところをよく見かけます。しかし、その評価には、前述したとおり金融工学の専門知識が必要であり、会計分野への精通も求められる要素です。いい加減な評価サービスを行う機関も実際多くありました。

2006年1月、TRNコーポレーション(3351)が決議した新株予約権は、有利発行を理由に東京地裁により発行を差し止めの仮処分を受けました。これは、当初の発行決議時において、第三者機関であるコンサルティング会社に新株予約権の価値算定を依頼したのが始まりです。TRNはコンサルティング会社の評価結果を参考に発行価格を決めたのですが、裁判所には認められず、結果的に同社は新株予約権発行を断念。同社の株価は、そのタイミングを皮切りに約半分まで落ちました。
また、他にもサンテレホン(8083)が証券会社に割り当てた新株予約権も、2006年6月、株主による発行差止仮処分の請求により、その発行は有利発行として認められ、結果的に中止されています。

今後は、株主に対する負のアナウンスメント効果を引き起こさないよう、新株予約権の発行および評価を適正に実施することが一層求められるのでしょう。

2006年08月03日

米国:SO不正対応への監査指針

一連のストックオプション日付操作問題を受けて、米上場企業会計監視委員会(PCAOB)は監査法人向けに、企業のストックオプションの付与方法や会計処理を監査するための指針を発表しました。

指針では、企業がストックオプションを発行する際、権利行使価格を市場価格より低く設定した場合はその事実を公開する必要があり、公開を怠れば追加の費用計上による決算修正が必要になるケースがあると強調され、さらに、付与日の決定過程が適当だったか、権利付与に必要な書類が整っているかどうかなどの点についても確認するよう要請しています。また、日付操作などの不適切な会計処理を発見した場合は、企業の経営陣や監査委員会に報告し、早急に改善を促す義務があり、過去に不適切な処理があれば決算修正が必要となり、直近の会計処理の信頼性を左右することにもなるため、監査法人は過去の監査業務についても責任があると指摘しました。

そんな中、パソコン大手アップルコンピュータ社は昨日、決算を修正する必要が出る見通しと発表したほか、四半期の財務報告提出が遅れることを明らかにしました。ストックオプションの会計処理で、問題が見つかったからです。アップルは、当局に提出した文書の中で、2002年9月29日以降に出した財務に関する発表はすべて、信頼すべきではないとしています。

同社は2006年6月29日、ストックオプション付与に関して不正行為が見つかったと発表、調査を外部に委託し、SECにも通告したとしていました。
今回アップルは、過去のストックオプションに関連して、非現金費用を計上するため、財務書類を修正する必要が出る見通し、と発表しています。